名作のヒットが生み出した壁(「ひるね姫」の評価の是非と、「君の名は」)
年度末で忙しさにかまけて、またもや時間が空いてしまった。
さて、今回は先日見てきた「ひるね姫」、その評価。「君の名は」という一つの壁の話題。
「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」は、テレビアニメ版「攻殻機動隊」や劇場アニメ「東のエデン」などを手掛ける神山健治監督が脚本、監督を務める新作劇場アニメである。
~あらすじ~
瀬戸大橋に近い港町・下津井で、父と二人暮らしをする平凡な女子高生、森川ココネ。彼女はどこでもすぐに眠くなってしまう体質で、暇さえあれば昼寝をしてしまう。
不思議なことに、寝ている間に見る夢は、ココネの父、森川モモタローが創作したおとぎ話で、ココネが機械の国・ハートランド王国の姫、エンシェンとして暮らしているファンタジー世界の物語である。
ある日、学校に父・モモタローが警察に捕まったと連絡が入る。慌てて父がいる警察署に向かったが、面会は許されず、仕方なく帰路につく。
家に帰ってしばらくすると、夢の中に出てきたエンシェンを忌み嫌うハートランド王国の異端審問官・ベワンにそっくりな男が現実に現れる。どうやら、父が捕まったことと、この男は何か関係があるらしいのだが…。
この作品、映画サイトなどで見ると、イマイチ評判が良くない。ネットというのは、とかくマイナス意見の方が大きく見えてしまうのだが、批判している側の人間が引っ掛かっているモヤモヤというのはわからなくもないでいる。
現実の森川ココネと、ハートランド王国の姫、エンシェンの話が、ところどころでザッピングし、夢の中で起きている事が現実と色々リンクしていることに気づく、というところまではわかる。
ところが、途中からココネの夢と現実の境が曖昧なまま、登場人物たち全員がココネの夢の中に入り込み、情報を共有しているような描写になっている。
ココネが夢の中で起こした行動によって、何かしらの結果が起きているようなのだが、夢の中での問題解決に対し、現実でどんなことになったのか、結果の描写があまりない。
どうして、ココネがそんな特殊な力があるのか、そもそも、なぜ、ココネがそんなにしょっちゅう眠くなるのか、という事がハッキリわからない。
また、現実での森川ココネの境遇や生活、夢の中のハートランド王国での設定など、尺に対して情報過多なのか、消化しきれていない感がいなめない。
なぜ「ひるね姫」は叩かれているのか。
ここに「君の名は」の高い壁というのを感じるのである。
昨年は、「君の名は」、「聲の形」、「この世界の片隅に」など、アニメ映画が盛況。特に「君の名は」は、200億以上の興行収入を叩き出し、2016年8月末に公開されたにもかかわらず、2017年4月現在、未だ上映している劇場もあるほどの超ロングランとなっている。
このブームはニュースでも取り上げられ、アニメ映画の大ヒットは社会現象として世間に認知されることとなった。
思うに、アニメ映画、特に「君の名は」を観る事が、若い人たちのある種のトレンドとなっていたのではと思っている。
しかし、「君の名は」は監督である新海誠氏も言っていたように、予測がつかない降って湧いたお祭り騒ぎだったのだ。
それまで、一部のアニメ好きやマニアの支持が大半だったアニメ映画が、幅広くカジュアルな層に支持されることで、アニメ映画に観に行くことに対するハードルは下がったと思われるが、「君の名は」の空前のブームは映像作品として完成度、というところでのハードルは上がってしまったのではないだろうか。
「ひるね姫」は主人公・森川ココネの声優を人気女優の高畑充希が担当。脇を固めるのも満島真之介、江口洋介、高橋英樹といった豪華俳優陣である。
こういった部分はカジュアル層からすると、十分に興味を引く内容だろう。「君の名は」的な泣ける映画を期待して観に来る人たちもいると思われる。
しかし、「ひるね姫」は「君の名は」ほどシンプルではなく、わかりづらい展開がある作品なので、カジュアルな層からの支持があるとはあまり思えない。
アニメ好きや、マニアはそれはそれで目が肥えているので、どうにも消化不良な「ひるね姫」を高く評価されない。
結果として、トータルの評価は高くないという状況だと思われる。
マニアとしては、このようなアニメ映画がどんどん投入されるのは嬉しいところだが、求められるハードルは相当高い気がしている。
個人的に「ひるね姫」は、エンディングの高畑充希が歌う「デイドリームビリーバー」でも大分価値があると思う。