ニッチユーザーの不定期日記

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声も芝居も千両役者(舞台役者、声優、伊藤健太郎氏の舞台観覧)

伊藤健太郎氏が率いる劇団「K-show」の舞台を観覧。

 

2003年に旗揚げをした「K-show」は今年で13年目。毎年複数回の舞台公演を行い、井上和彦氏、平川大輔氏、鳥海浩輔氏を始めとした、主宰の伊藤健太郎氏にゆかりのある役者陣もゲスト参加。その中には伊藤健太郎氏が芝居の師として仰ぐ故・肝付兼太氏も客演していたことがある。また、声優でミュージシャンの森久保祥太郎氏が公演ごとのBGM制作を行うなど、小規模ながらも精力的に活動する実力派演劇集団である。

 

今回の舞台は、劇団員たちがいつも使っている稽古場を開放し、そこで1時間弱の短めの公演を行うアトリエ公演。今年の2月に初の試みとして行われ、今回は2回目となる。あくまで稽古場としての空間であるため、客席は少なく、音響設備、照明も簡易なものとなっているが、舞台と客席が極端に近いため、臨場感や熱量を感じることができる演出は中々に心地よい。

 

「心ひとつに~開演5分前だが誰もいない件について~」。

とある理由で、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」を文化祭の劇でやりたいと奮闘する少女・杉原。その悲しい理由を知る教師の後藤は、クラスの中で上がった様々な演目を無視し、「真夏の夜の夢」の公演をゴリ押した。理由を知らないクラスメイトは反発。稽古はしていたものの、当日になると、杉原以外が舞台をボイコットしてしまう。困り果てた後藤だったが、交換条件を出すことで数名の生徒を丸め込み、一人に何人もの兼役を与え、自分のナレーションと説明でなんとか舞台を成立させようとするのだが…。

 

注目すべきは、「真夏の夜の夢」が取り上げられていたこと。主宰の伊藤氏は、主に現代劇を中心とした芝居構成で、「K-show」においては古典演劇は取り扱っていなかった。しかし、劇中劇という形で、「真夏の夜の夢」が演じられ、序盤こそ、かなりアレンジの加わったセリフ回しとなっているが、後半の盛り上がりで、古典の台本そのままの「真夏の夜の夢」が披露され、古典の言い回しをしっかりと演じきっていて、思わず唸ってしまう。

後で聞いてみると、出演者の中には養成所や、大学時代の演劇発表などで「真夏の夜の夢」の舞台経験があるという話を聞いて、妙に納得した。

 

また、このアトリエ公演の特徴の一つとして、いつもは一人で脚本を書いている伊藤健太郎氏が、出演者全員から演出やセリフのアイデアをヒアリングして、ブレストしながら舞台を作っているというところ。

個々人のやりたい事を反映しているため、かなり尖ったキャラクターたちが出てくるが、そのカオス状態がうまくまとまって着地点を作っているところが、まさにベテランの成せる技と言えるだろう。

 

千秋楽である本日は、「K-show」の後援会である「K-smile」入会者限定公演となっており、舞台終了後にトークショーや打ち上げといったイベントも催された。それぞれの出演者に今回の舞台についての感想を聞いてみると、それぞれが自分のやりたい演出のために努力したこと。短い時間の中で、どうやって自分を見せるかという話が聞かれ、座長である伊藤健太郎氏の全体的演出プランと、個々の演出プランがうまく嚙み合っていい舞台が作られていると感じた。

 

それにしても、舞台も含めて主宰の持ち出しとはいえ、生の舞台を1500円で観覧できるというのは、本当にありがたいやら、もったいないやら。思わず、もう少し出します、とこちらが言いたくなってしまうほど、値段の倍以上の価値のものが観れたと思っている。

 

次回は5月、長尺の本公演である。どんな芝居が観られるのか、今から楽しみである。